日本画制作の大きな特徴として、

日本画は一般的に本画に入る前に

小下図、大下図

と呼ばれるものを作成する。

小下図というのはスケッチのような小さいサイズの絵場合なよっては彩色もする。

大下図というのは、本制作と同じサイズのふ下絵で、主に色をぬらず、鉛筆で形の輪郭線で描いたものだ。これを本画に転写していく。

使う絵具とのせる順序を計画し、進めていく。

油絵がいったり戻ったりを繰り返して、少しずつ進んでいくものとすれば、

日本画の場合は最初に完成までの道筋を決め、一つずつ着実に積み上げていく一方通行の道のりだ。

絵の制作途中で試行錯誤するのが油絵、絵をかくまえに試行錯誤するのが日本画というイメージだ。

日本画制作においてこのような複雑な過程をふむ理由として、

日本画は、本画に入ると、一般的に途中で失敗できないとされているためだ。

わたしは、学生時代、上記の画像作品のように、小下図、大下図を作成していた。

けれど、そのうち

わたしは下図から転写をしないで、

ぶっつけ本番でいきなり絵の具をのせていくようになる。

その理由をお話したい。

絵が固くなる。

まず、大下図から転写をするとき、一回描いた線をもう一度描くという作業があるのだが、これは絵の勢いを殺すことになる。

どうしても二回目は、機械的な作業となってしまい、線の質が落ちるのだ。
特に、大作で連続的な形であるとそれはより一層顕著になる。
これがわたしが下図を描かない最大の理由だ。

そもそも、なぜ、日本画は失敗できないもいわれるのか

その最大の理由は

間違えた、と思っても絵の具を流すことができない点にある。

流すとは、のせた絵の具を水などでふきとり、消すことである。

油絵の具や水彩絵の具は、水や油を混ぜれば簡単にうすまり、のせた色を消すことができる。

しかし、日本画の顔料はもともと粉末状のものをのせていて、完全に吸着するのに非常に時間がかかるため、

一度のせた色面に水を加えると、

その下の層の絵具まですべて流れてしまう、ということがよくある。

しかし、だからこそ日本画はのっぺりとした平面的で無機質な画面になりがちだ。

細かい色味の調節が驚くほど難しい。水を多くしてうすく絵具をのせても、乾いたあとの色は予想ができない。

逆に 、顔料の色をそのままのせれば、色ははっきり出るが、細かいグラデーション、ここは明るくする、薄くする、といったことはできず、その顔料の色、まさにそのままになってしまう。

油絵のように、たくさんの色を複雑に混ぜたり重ねたりすることがとても難しいため、どうしてもシンプルになってしまうのだ。

だから、日本画には躍動感が少ない。どこまでも、冷静で計画的で、形式的。少し無機質な感じがある。

その洗練された狂いのない色彩と線もまた日本画の大きな魅力であるが、

油彩のような即興のライブ感を併せ持った日本画を描きたいと思う。

ちなみにこの最初の段階で使うのは顔さいといった日本画の顔料を固めた固形絵具である。一般的な水彩絵具のように手軽に使えるもの。

下絵となる簡単なスケッチを見ながら

このように、油絵と同じような感覚で、ガシガシ描いていく。この段階では、まだ固形絵具なのでいくらか絵具は消えやすい。

次に使う顔料については、簡単な計画をたててのせていく。

いずれにせよ

本画に入る前にたくさんの下絵の制作や入念な色彩計画と、完成までの構想を仕上げてから取りかかり、途中で失敗をしないようにするのが日本画の通例だが、

私はあえてざっくりとした計画のみで進んで

躍動感を意識した日本画を描くのだ。

絵に厚みが出る

途中で変更することによって絵の具の層は重なる。色は消えても、粒子のそうは消えない。結果として絵の奥行や厚みがでるのだ。

失敗するたびに重なる、その筆が、絵の具の層が、すべて画面に刻みこまれていく。絵に厚みがでるのだ。

描きながら失敗はあるが、結果としてそのすべての過程がにじみこんだ生きた絵画として完成するのだ。

思考が常に新しくなる

日本画は、一度計画を決めてしまえば、あとはその通りに進めるだけなので、やや完成イメージが固くなりやすい。

けれど、下絵をあえて描かないことにより、もとの絵に頼らず、常に生き生きとした自分のイメージを再度想起しながら、新たな感覚で絵に向かっていけるのだ。

その狂いのない形式美、様式美に日本画のひとつの魅力があるのも事実だ。

しかし、あえて私は型にはまらない日本画を選ぶ。それは、今まで油絵やスケッチで培ってきた感覚を捨てず、自分のやりやすい方法で日本画に向き合うことで、良い絵ができると考えたからだ。

当たり前のことかもしれないが、絵画にセオリーはない。絵を描くのにこれはしちゃだめなんてことはない。

常に生き生きとした気持ちで表現し、型にはまらないより良い技法を自分で編みだし、次の作品がいちばん良い作品になることをコ心がける。

だから、その第一歩として私は日本画の基礎である大下図の転写をしない。

何度でも失敗し、最高の絵を描くために___。

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