みなさんは美術館でどのように絵を見るだろうか。
大体、順路に沿って、絵のタイトルとか技法が書いてある説明パネルを見て、絵を見て…
と、そんな具合で進んでいないだろうか。
しかし、そんな機械的なベルトコンベアの作業のように、鑑賞を行うのは
非常に勿体ない。
わたしは、大学では美術鑑賞や学芸員になるための専門の授業をたくさん受けていて、大学時代は絵を描くよりむしろ美術館に行く時間の方が長かったくらいだ。
その経験のなかで、わたしは自分なりに一番絵を見て充実感を覚える方法を見つけた。
そのポイントをお話していきたい。
①キャプションは見ない
キャプションとは、絵のすぐ下とか横に貼られている大体幅10cm以内の小さいパネルのことだ。
作品の題名や作者や制作年、技法、作品の簡単な解説などが書かれている。
これを、まず作品を見る前に見る人がよくいるが、これはやめたほうが良い。
理由は、
絵を見る前に先入観を持ってしまうためだ。
よく、絵は知識をつけてから見たほうが良いと言われる。
これは、一方では合っていて、一方では間違いである。
確かに、その作品の背景や知識を学ぶことで絵の見えかたは格段に広がる。
しかし、その情報を入れるのは、
自分なりに絵をよく見て、感じ、疑問や考えを持った後である。
最初から絵の解説をみて、その後に絵を見たら、その絵はもはやその解説通りにしか見えない。あなたは、説明に書いてあることしか見ないし、見ようとしないだろう。
それでは、絵を前にしたときの新たな発見も、感動もないのである。
だから、まずは、自分の目を皿のようにし、なんの先入観もないまっさらな心で作品と対峙することが重要だ。
そこで、よく目を凝らせば、なにが描いてあるとか、なにがテーマだとか、自分のなりの考えが生まれてくる。
ここまできて、初めてキャプションを見る。
自分の感じたことがそのまま題名や絵の解説に書かれていればそれも良し、
まったく違ければそれも良し、
違かったら自分はなぜそのように感じたのかまた考えてみる。
疑問を持てば持つほど、それを解決するためにキャプションだけでなく、展覧会の図録や図書を探して調べるといいだろう。
こうして自然と知識を求める状態になることが一番良い。
そうすると、知識とともに鑑賞体験はどんどん深まっていく。
こうすることで、自分の感性を大切にしながら、かつ知識も自然に入り、より作品を見ることが楽しくなるだろう。
②順番にこだわらない
フロアが混んでいたり、逆走して人に迷惑を、かける構造、あるいは順路の通りに進んでくださいと指示されている場合以外は、
基本的に順路は気にしなくてよい。
むしろ、順路にそって、順番に機械的に絵を眺めていると、自分の気になるものを見つけるのが難しくなってくる。
なぜなら、
しっかり絵を見る、かなり目と頭を酷使するからエネルギーを使うからだ。
そうすると何が起きるか。
なにも考えず、とりあえずすべての作品を順番にじっくり見ると、
必ず後半は集中力がおちる。
すると、最後のほうに、自分にとって良い作品があったとしても、最初の集中力がないからスルーしてしまう可能性が高いのだ。
では、どうすればいいのか?
それは、
全部の作品やフロアを早歩きで一度さーっと流し見しながら通り過ぎる
これでよい。
それだと、よく、わからないまま終わってしまうのではないか、と思うだろうか。
実は、企画展示などは大体5つくらいの構成でフロアが分かれているのだが流し見で一度まわると、ある程度こういった展示の構成、このフロアは大体こういうテーマの作品が並んでいる、とざっくりした展示全体の流れが掴めるのだ。
また、視覚は、五感のなかでも、80%以上の情報は目から入ってくる優れものなので、絵を遠目から流し見するだけでも、
意外と自分の気になる絵というものは見つかりやすい。
(もし見つからなければ、もう少しペースを落として最初からまた巡っていけばよいのだ。)
だから、まずは流し見をして、あとで自分の気になる作品を見つけ、じっくり楽しむというやり方で鑑賞すると良いだろう。
③作品は近くと遠く、両方から見よ
最後にお伝えしたいのは、作品を見る距離だ。
たとえば作品を1mほど離れて近よりも遠くにもいかず見終わるのは作品の魅力を見逃している場合が高い。
一定の距離から見るだけではその真の魅力に気づかない作品は数多くある。
たとえばモネの睡蓮。
「睡蓮、水のエチュード、雲」1914-1918年
これは、近くから見るとぼやぼやしていて何がなんだかわからない絵だが、10、20m離れて見ると、急に一つ一つのモチーフや色が浮き上がってくるように見えるのだ。
逆に、可能な限り作品に目を近づけることも大切だ。
(自分の目拡大鏡だと思って)、10cmほどの距離から目を凝らしてみると、画家の筆運びや質感の違い、モチーフの細部の表現に気づくことが多くあるだろう。
エドゥアール・デュビュッフ「ルイ・ボメリー夫人」1875年 油彩・カンバス
こういう細密な肖像画などは、特に衣装や人物の顔の細部などに目を凝らすとたくさんの発見があるだろう。
また、絵の具以外の面白い材料を使っている場合も近くから見れば、その質感の違いの良さをより感じとれるだろう。
たとえば、クリムトの装飾的な作品。
グスタフ・クリムト《ハラス・アテナ 》部分 1898年 油彩・カンバス
これも、一部に金箔が貼られていたりして近くで見ると、その質感の美しさが存分に味わえるのだが、遠くから見ただけではその奥深さに気づきにくい。
このように、よく見ると、こう描いてる、よく見るとこれを使っている、など色々気づくことがある。
そして、目を凝らさないと見えないその、細部に、実は画家の魂が宿っている場合もあるのだ。
まとめると
☆知識は最初にいれないこと
知識は大事。しかし、それは絵と向き合ったあと自主的に調べよう。まずは、自分の感性を研ぎ澄ましとことん絵と向き合うこと!
☆人に迷惑をかけない限り、作品を見る順番 は自由に決める。
自分の本当に見たい作品に時間をかけよ!
☆作品との距離を意識しよう!
離れて見たり、近くから見たりして絵の魅力を存分に味わいつくそう!
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