貴船山雪 スケッチ(部分)
年始の貴船神社は奥宮まで人が賑わっていた。
5年前に来た頃と比べると、貴船神社付近には随分新しい茶店やもモダンなカフェもでき、随分観光地化してしまった。
芹生方面も去年の大型台風による甚大な被害により、未だに閉ざされたままだ。あちらこちらに残る倒木、斜めに曲がった幹。かつての美林の姿を想い、胸が痛くなる。
逃げるように、奥貴船をあとにし、とぼとぼと引き返す。
途中、ふと古事の森の看板を見つけ、見れば山道が続いている。
雪に埋まる登り道に、導かれるまま分け入ると、喧騒がしだいに遠のく。
ザクザクと雪の感触を踏み締め無心で登っていた。標高が上がり、ふと顔を上げれば貴船の山々が見渡せた。
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奥貴船の山には、周山よりも雪が残っていた。貴船から芹生へつづく北山杉は枝打ちが先端の方までされていないため、葉の部分が縦長の三角の形で残っている。規則正しく三角の林立形が、ななめのリズムを生み出している。
その連なりに合わせてまるでちらし粉をふるいでまぶしたような丸い点々が、浮き立つ樹形の右端につもる。
溶けかけ、中途半端に残った雪ーー。昔のように美林であったなら。貴船が観光地となっていなければ。深雪の積もる時期であったなら。この山はもっと幻想的であったのだろうか。
けれども、この散らされた細かな白粉は繊細でまばゆく、杉木立の規則的に重なるカタチは美しいリズムを奏でていた。
まるで、京の美が失われていないことを静かに訴えるようにーー。
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