私は今、必死に日本画というものと向きあい、描き続ける毎日を送っている。

しかし、これまで日本画を一度も誰かからきちんと教わったことがない。

自分の中では、日本画=決まった手順、伝統的な基礎画法の上に成り立つ象徴とも言える存在だった。

絵画技法の中で、最も素人が下手に手を出してはいけない部類だろうというイメージがあった。

そんな私が日本画家をやっている理由を少しお話しようと思う。

目次

  1. 中学~大学時代
  2. 岩絵具との出会い
  3. 初めての日本画
  4. 卒業制作も日本画に
  5. 岩絵具の魅力と難点
  6. 岩絵具と他画材との比較
  7. 水彩・油彩と、岩絵具の違い

中学~大学時代

中学の頃、美術部で油彩をやっていた。主に風景が好きでよく描いていた。

そして、たまたま美術室にあった「東山魁夷」の風景画集に出会い、あのえもいわれぬぼんやりとした色彩の深みと柔らかいタッチに静かに感動を覚えたのを記憶している。

当時日本画ということもよくわからず、当時の美術部の先生が油絵専門であったため、そのまま油彩を続けて大学まで油絵やアクリル画、水彩画を中心に描いていた。

しかし、風景を描くうち、中学の頃に出逢った東山魁夷の絵を思いだし、調べてみたところ、「岩絵具」という鉱石を砕いて粉末状にしたものが用いられていることを知り、興味が沸いた。

岩絵具との出会い

さらに、ちょうどその時参加予定のグループ展の作品テーマが『結晶』だった。

その「結晶」の意味は、1つ一つのものがたがいに重なりあい、寄り添いあうように調和を生むというものであった。

岩絵具は、一つひとつの粒子が輝き、ひとつの色面を織り成す。このテーマにぴったり合うと思った。

そんなわけで、3年生の絵画研究室ではじめて岩絵具を使ってみたのだ。

絵画研究室の教授は油絵専門だったので、完全な独学だった。技法書をみてもよくわからず、本当にあやふやな知識だけで取り組んでいた。

結果、かなり苦労し、失敗の連続で本当に辛かった。それでものせたときの絵の具の輝きが本当に美しく、試行錯誤を重ね続けた。

初めての日本画

そうこうして初めて取り組んだ日本画制作。結果として顔料の奥深い輝きが画面にあらわれ、展覧会には満足いく作品が出せた。

処女作『立静』

これ以降はもう油絵の具やアクリル絵の具のビニール感やテカテカが本能的に受け付けなくなってしまった。自分でも驚くくらいに使えなくなった。

まさに、虜になってしまったわけだ。

だから卒業制作でも岩絵具を使うことにした。

卒業制作も日本画に

だが、卒業制作で基底材(水彩画でいう画用紙みたいなもの)に使った綿布が岩絵具と相性が悪く、絵の具が流れてしまった。(おそらく数万円は無駄にしただろう…。)

本当は基底材を和紙にすれば良かったのだが、おそらく油彩画のクセで「(丈夫な基底材を…)」と思ったのだろう…。なんとなく和紙はあまり丈夫じゃないのでは、という認識があった。

ちなみに、今は土佐麻紙という和紙を好んで使っているが、厚塗りに耐えうる強い素材であることが分かった。

卒業制作『深林』1800×3600㎜ 部分

そんなこんなで散々な制作だったわけだが岩絵具の美しい輝きに魅せられた一心で日本画をやっていたわけだ。

今となってはあれを日本画と呼んでいいのかわからないが…。(一応、調べてみたら膠を使った絵はすべて日本画というらしい。案外定義が広くてびっくりした。)

岩絵具の魅力と難点

内側から発光しているようなにじみでる細かい粒子の反射。

それらがすべて緻密なレイヤーや奥行きを生んでいる。

顔料そのものの輝き。質感。色。すべてがあまりにも油絵の具や水彩が及ばない美しさなのだ。

しかしながら、いちいち膠を溶いたり絵具をつくったり胡粉をかけたり、、その工程の多さや失敗がききにくいという技法上の難易度がネックだった。

だから、なんとかして岩絵具以外の画材で同じような美しさを出せないかと色々試してみた。考えうるすべての方法を。

基底材も板や布や紙など、様々なものに変え、アクリル、油彩、パステル、色鉛筆、水彩すべて試した。併用による効果も試みた。

しかし、

やはりどれも岩絵具単体の輝きや発色に遠く及ばない事実に直面し、愕然としたのだ。

岩絵具と他画材との比較

試しに同じ絵を水彩と岩絵具で描いてみたものを皆さんにも見て比較して頂きたい。

上が水彩 、
下が岩絵具。

※同じ条件で撮影、無加工

写真だと分かりづらいかもしれないが、発色が全然違うのだ。

水彩・油彩と、岩絵具の違い

水彩絵具や油絵具が、本来の色の上に何か余計な膜が張られているとしたら、

岩絵具は、材料の持つ本来の純粋な色がそのまま目の前にあらわれるイメージといったところか。

つまり、水彩や油彩は色が鈍いのだ。

さらに、

岩絵具は基本的に下の色を隠す性質を持っているが、不思議と幾層にも重ねると下の色も少しばかり混ざったような、輝きとともに深みのある立体的な、不思議な色面になる。

しかも、細かい岩石がそのままのっているから、絵肌自体も微細な奥行きと厚みをもってこちらに迫ってくる。

もちろん、油絵の具や水彩絵の具で素晴らしい発色の絵を描かれている方が多いので、これは単純に画材の相性もあると思う。

とにかく、技法上の面倒が多く、あと単純に値段が高いということも結構な痛手なのだが、私はこの時に「あぁ、降参だ。もう君を使ってやるよ。」そう思った。


かくして、

この瞬間から私、富田久留里は日本画の道を進む決意をした。

そして、今も画架にかかるつくりかけの作品を前にし、キラキラと光る絵肌を眺めながら、ああ、一生わたしはこの絵の具を使っていこうと思うのだ___。

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