《奥まる壁》
“The secluded wall” ・
パネル 油彩 220×160㎜
シャルトル大聖堂の有名な“シャルトルブルー゛のステンドグラスは美しかった。
今まで見てきたそれとは比べものにならない深みのある色合いと輝き。
特に、マリアの衣などは、シャルトルブルーと呼ばれる青の色彩に包まれ、暗闇の中くっきり鮮やかに浮かび上がる 。
ここのステンドグラスは、聖堂が造られた当初の13世紀(日本でいえば鎌倉時代)のものだというから驚きだ
脳裏に残る青の輝きに酔いしれながら建物の外に出る。
幅5mほどの堀を挟んですぐ目の前にそびえる外観をしみじみ眺めながらまわっていると、
その古き壁のある一点にふと集中する。
そこは、側廊部分の下窓部分。せりだした部分ではなく凹んだ位置にあり、外観の中ではあまり目だたない場所だ。
格子が巡らされた小さな窓の部分は暗く、それがなぜか逆にくっきりと印象的に見えた。
窓部のまわりを覆う石材の幾層にも重なる微細なマチエールと色味。
苔むし、ひび割れ、しかしそれは破綻ではなく聖堂の美の調和そのものであった。
増設に増設を重ねたゴシック建築ならではの奥そのまた奥へ続いてゆく構造の厚みにものを言わせぬ歴史の風格があらわれている。
奥まる壁に心が吸い寄せられる__。
眼前の壁は、限りない深みと存在の証明に他ならなかった。
人間が創ったものなのに、それは人間のの言葉や意思をすべて置き去りにしたように見え、その薄暗い陰翳は、異なる時空への誘いのようであった。