《旅の風景画と詩》 早春の京__祇王寺__

《旅の風景画と詩》 早春の京__祇王寺__

奥嵯峨野、滝口寺と並ぶように建つ尼寺、祇王寺。早春の苔寺にはぽつりぽつりと落ちる紅色ー。その鮮烈な印象は今も脳裏に焼き付いているーー。

《紅落つる》2021

fallen crimsons
F6号
岩絵具、麻紙



錦のように鮮やかな幾層もの緑が織り成す苔むす庭、春の祇王寺。光の粒が、苔の細かい茂みに反射して宝石のように輝いている。

散り落ちた椿は、清盛の寵愛から一転、この寺で尼となった4人の女性たちのように見えた。

その鮮烈な紅色。

念仏三昧の生活のなかで彼女たちは宮中での無常な興の日々ではなく、本当の極楽浄土を夢見ていたのかもしれない。

ふかふかとした美しく光輝く苔に気持ちよさそうに横たわる花頭を見ていると、

少なくともこの寺で過ごした彼女たちの余生は、幸せなものだったのだろうと想い馳せる。

この春の陽射しに光り輝く黄緑に鮮烈な美しい紅が照り映え、そのことを物語っているように思えた。

清盛の心の遷り変わりに悲しみこの地に籠った4人の女たちの魂は今もなお、鮮やかに春の麗かな陽射しに照らされている。

それは、強く、誇らしげに映った。

早春の光のなかで出逢った瞼の裏に残る鮮烈な印象
祇王寺ーー。夏に行けばそれはもう青々として椿の花の切なさも目を細めるような光もない。

あの時だけ、私は平安の世の諸行無常の虚しさと美しさを知ったのだ。

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