《陰影礼賛》“in praise of shadow” 紙本彩色
ミケランジェロ広場の小高い丘からさらに階段を登り、サン・サルヴァトーレ教会からさらに坂を登った先にひっそりと建つ。サン・ミニアートアルモンテ教会。
ドゥオモやサンタマリア聖堂に見られる色大理石を用いた幾何学模様のファザードが夜の帳に浮き立つ。
堂内に入ると、身廊の奥が上下二重構造となっており両側の側廊から2本の階段がのびていた。
夜の薄暗い堂内は、ぼんやりとした灯りがともっている。
階段を登り上階に立つと、おもむろに聖歌が聴こえはじめた。視線を下階に移せば、祭壇の方が明るく光っていて地元の信者とおぼしき人々が集まっているのが見えた。
ちょうど今は日曜日の夜。祈りの時間だ。
清らかな斉唱に耳を傾けていると、だんだんと自分も大きな信心に包まれる心地がやってくる。
厳かな気持ちのまま、祭壇側を眺めながら向かいの階段のあるところまで進み、降りようと入り口のほうを振り返った瞬間、わたしは電撃に撃たれたようにその場に立ち尽くした。
それは、祭壇を背にした側廊の光景だった。側廊には灯りは点っておらず、ひときわ暗く、入り口側に向かってその闇は濃くなっていた。
しかし列柱の隙間から身廊側の灯りが射し込み、それは建物の構造を浮かび上がらせるように、屈折し、細く光の道をつくっていた。
夜の陰翳のなかでこそ、その旧き建物はいっそう厳かな風格をもって、その一筋の光はわたしの眼に、脳にじんわりと広がり、染みこんでいく。
そして終にはただその厳かな暗がりと灯りのなかにこの身が溶けていくのをかんじた。
それは、夜の静寂と聖声に包まれた、旧き教会での奇跡__。