簫々と降る (F4号 水彩)

東山魁夷の《池澄む》を見てから、天龍寺を訪ねるなら雨の日と決めていた。
今回の旅の雨天は好機と見て、嵯峨野から嵐山方面へ向かって歩きはじめる。
曇天の空から、時節まばらな雨が降りしきる。

《池澄む》に描かれた回遊式庭園をめざし敷地内を進むと、雄大な嵐山を借景にした美しい池が姿をあらわした。
想像以上に大きく、そして悠然と広がるさまにふっと息を吐く。
大規模な寺の厳しく堅固な威風のようなものを感じさせる造りだ。
宋の枯山水、切り立った山景を思わせる大胆に配置された岩壁。
池を正面に見る腰掛け台からぼぅっと眺めていると、次第に雨脚が少し強くなってきた。

すると、急に静かだった水面がざわめきだし、黒い線の水紋があらわれる。それは、光琳の紅白梅図屏風の中央の水流の紋様を思わせる形式美であった。
その間を、小雨のまばらな細粒が水面で光って跳ねている。

この美しい情景はものの1分ほどで消え失せた。
夕方の閉門まで眺めていたがその後もう2度と雨が降ることはなかった。


それは、一瞬の艶やかな美。

雨の天龍寺___。

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